健康長寿の秘訣は口の健康を保つこと

誰もがいつまでも食事を楽しみたいと思うもの。ところが加齢とともに口の働きは低下していきます。この低下を少しでも食い止め、元の健康な状態に戻すには、口のささいな衰えに早く気づき、対策を講じることが大切です。

ムセや口の中のネバネバ、食べこぼしなどが多くなったら要注意

年を重ねると、物を噛んだり飲み込んだりする力が衰えてきます。すると本来であれば食道に送られるはずの食べ物が気管に入ってしまい、ムセてせき込んだり、場合によっては誤嚥(ごえん)性肺炎を起こしたりすることがあります。また、軟らかいものばかりを食べるようになったり、食べ物を飲み込むまでに時間がかかったりするようになります。

加齢により唾液は分泌量が減り、その性質も変化してきます。そのため、口の中がいつもカラカラになったり、ネバネバしたりします。また、唾液のもつ洗浄作用や抗菌・殺菌作用が十分に働かなくなり、むし歯や歯周病を招きやすくなります。

舌も、食べ物を唾液と混ぜて飲み込みやすくしたり、食べ物をのどへ運んだりなど、食べたり飲んだりするときに重要な働きをします。舌は全部が筋肉なので、年をとると足腰の筋肉が弱くなるように、舌の筋肉も衰えてきて、食べこぼしが多くなったり、食事中に舌を噛むようになったりします。
 
 

オーラルフレイルは適切な対策をすれば健康状態に

口の働きが衰えた状態のことを「オーラルフレイル」といいます。この状態を放っておくと、フレイルへと進みます。フレイルとは“虚弱”という意味で、心身の活力が低下した状態を指します。言わば健康と要介護の中間状態のことで、フレイルが悪化すると要介護状態となります。

東京大学と東京都健康長寿医療センターが行った大規模調査によると、オーラルフレイルがある人は、そうでない人に比べ4年後に要介護状態になるリスクが約2.4倍、死亡リスクは約2.1倍高くなることがわかっています。ただし、オーラルフレイルに早く気づき、適切な対策をとれば、健康な状態に戻ることが可能ですので安心してください。

健康づくりで大切なのは、食事と運動、睡眠といわれますが、高齢者はこれらにプラスして、口の健康を保つことが健康長寿の秘訣といえるでしょう。
 
 

嚥下おでこ体操やパタカラ体操で口の健康を維持しよう

飲み込む力を鍛える体操としてよく知られているのが嚥下おでこ体操です。へそをのぞき込むようにあごを引き、片手を額にあて、のどぼとけ周辺に力を入れながら、手と額を5秒間押し合います。舌の筋肉を鍛えるには「パタカラ体操」がおすすめ。「パパパ…、タタタ…、カカカ…、ラララ…」というようにそれぞれの音を連続で発音したり、「パタカラ、パタカラ…」とくり返したりします。

丁寧な歯磨きをして口の中を清潔に保つことも、もちろん大切です。歯周病などで歯を失い、義歯を入れずにそのままにしておくと認知症のリスクが高まることが報告されています。なお、口の健康についてわからないことがあるときは、薬剤師に気軽におたずねください。
イラストレーション:堺直子